大企業だけじゃない。中小企業にも求められる「人権リテラシー」

すべての前提として「人権」の中身を理解する

国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下「指導原則」といいます)では、「人権を尊重する企業の責任」は、規模や業種などにかかわらず全ての企業に適用される、と明記されています。
それで、「はいはい、わかりました。もちろん我が社は人権を尊重します」と言っていくことになるわけですが、そこでいう「人権」の中身を理解していないと、その宣言はうわべだけのものになってしまいます。
「ビジネスと人権」の文脈で、企業が尊重するべき「人権」とはそもそも何なのか、きちんと押さえておきましょう。

指導原則のいう「人権」とは

企業が尊重するべき「人権」は、「国際的に認められた人権」のことであり、最低限、
①「国際人権章典」で表明されたもの
②「労働における基本的な原則及び権利に関するILO宣言」で挙げられた基本的権利に関する原則
(「中核的労働基準」と呼ばれます)
を含むものとされています(指導原則12)。

国際人権章典

「国際人権章典(International Bill of Human Rights)」とは、以下の3つの主要な国際文書を総称する用語です。

1. 世界人権宣言(Universal Declaration of Human Rights, UDHR)(1948年採択)
2. 経済的・社会的及び文化的権利に関する国際規約(ICESCR)(1966年採択、1976年発効)
3. 市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)(同上)

この3つをあわせて「国際人権章典」と呼びます。これらの文書において、人間が生まれながらにして有するべき権利(基本的人権)の内容が体系的に示されています。ここで示されている主な人権の内容は以下のようなものです。

1. 市民的・政治的権利
個人の自由や法の下での平等、政治的参加の権利に関わるものです。
 ・ 生命に対する権利
 ・ 拷問・残虐な取扱いの禁止
 ・ 表現の自由・信教の自由
 ・ 法の下の平等と法的保護の権利
 ・ 公正な裁判を受ける権利
 ・ 私生活や通信の秘密の保護
 ・集会・結社・参加の自由 など
2. 経済的・社会的・文化的権利
人間の尊厳ある生活の基礎となる経済的・社会的条件に関わるものです。
 ・ 労働の権利、適正な労働条件
 ・ 結社の自由、労働組合の権利
 ・ 社会保障を受ける権利
 ・ 教育を受ける権利
 ・ 健康に生きる権利
 ・十分な生活水準(食糧・住居など)を享受する権利 など

労働者の基本的権利に関する原則

1998年の第86回ILO総会で採択された「労働における基本的な原則及び権利に関するILO宣言」において、全てのILO 加盟国は、労働者の基本的権利に関する4つの原則(結社の自由等)について、尊重等すべきものとされました。その4つの原則を具体化した8つのILO条約が「ILO基本条約(中核的労働基準)」と呼ばれてきましたが、2022年の第110回ILO総会で、労働安全衛生を新たに労働者の基本的権利に関する原則に含め、ILO基本条約に2つのILO条約を追加することが決定されました。
現在、労働者の基本的権利に関する原則は5つ、ILO基本条約は10条約となっています。
労働者の基本的権利に関する原則は、以下の5つです。

① 結社の自由及び団体交渉権の実効的な承認
② あらゆる形態の強制労働の撤廃
③ 児童労働の実効的な廃止
④ 雇用及び職業についての差別の撤廃
⑤ 安全かつ健康的な作業環境

中小企業の経営者が特に意識するべき「人権」

国際人権章典やILOの中核的労働基準に示される人権は非常に幅広い内容を含みますが、中小企業の経営者にとって特に身近で重要なのは、「労働に関する人権」です。たとえば、差別の禁止や適正な労働条件の確保、ハラスメントの防止などは、多くの職場で日常的に関わってくるテーマです。
たとえば、採用時に性別や年齢、国籍で不利な扱いをすれば、差別と見なされるおそれがあります。職場でセクシュアルハラスメントやパワーハラスメント等があれば、会社が訴えられる可能性もあります。こうした行為が表面化すると、SNS等で瞬く間に拡散され、企業イメージの毀損や顧客離れ、人材確保の困難など、実利面でダメージを受けます。
逆に、従業員が安心して働ける環境を整えれば、定着率の向上やモチベーションの維持につながり、生産性やサービス品質の向上も期待できます。また、最近では取引先が下請け企業に対して人権への配慮を求める動きも強まっており、適切な対応が新たなビジネス機会の獲得にもつながります。人権への取組は、コストではなく「経営上の投資」として捉えるべき時代に入っています。

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